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大阪高等裁判所 昭和52年(ネ)2045号 判決

控訴人(附帯被控訴人)

宗教法人日本基督教会住吉教会

右代表者代表役員

田口光秀

右訴訟代理人

阿部幸作

村田哲夫

被控訴人(附帯控訴人)

大崎良三

右訴訟代理人

榊原正毅

榊原恭子

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  被控訴人(附帯控訴人)が控訴人(附帯被控訴人)の代表役員であることを確認する。

三  控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)に対し、神戸地方法務局昭和五〇年八月四日受付をもつてなされた控訴人(附帯被控訴人)の代表役員丹波恵辞任及び代表役員田口光秀就任の各登記の抹消登記手続をせよ。

四  被控訴人(附帯控訴人)の、被控訴人(附帯控訴人)が控訴人(附帯被控訴人)の主任教師であることの確認を求める訴を却下する。

五  控訴費用は控訴人(附帯被控訴人)の負担とし、附帯控訴費用はこれを四分し、その一を被控訴人(附帯控訴人)の、その余を控訴人(附帯被控訴人)の各負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人(附帯被控訴人。以下、単に「控訴人」という。)

1  原判決を取消す。

2  原審における被控訴人(附帯控訴人。以下、単に「被控訴人」という。)の請求を棄却する。

3  被控訴人が控訴人の主任教師であることの確認を求める訴を却下する。

4  被控訴人のその余の請求を棄却する。

5  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

旨の判決。

二  被控訴人

1  主文第一項ないし第三項と同旨。

2  被控訴人が控訴人の主任教師であることを確認する。

3  控訴費用は控訴人の負担とする。

旨の判決。

第二  当事者の主張

一  被控訴人の請求原因

1  被控訴人は昭和三九年一一月一四日控訴人の主任教師(牧師)に任命され、同時に控訴人の代表役員に就任し、同月一八日その登記を経由して、引続き主任教師及び代表役員の地位にある。

2  しかるに、神戸地方法務局昭和四五年九月二九日受付をもつてなされた控訴人の代表役員被控訴人解任及び代表役員丹波恵就任並びに同法務局昭和五〇年八月四日受付をもつてなされた控訴人の代表役員丹波恵辞任及び代表役員田口光秀就任の各登記(以下「本件各登記」という。)が存在し、控訴人は被控訴人の前記各地位を否定する。

3  よつて、被控訴人は控訴人に対し、被控訴人が控訴人の主任教師であり、代表役員であることの確認及び本件各登記の抹消登記手続を求める。

二  控訴人の答弁及び抗弁

(答弁)

請求原因1の事実のうち被控訴人が主張のように主任教師(牧師)及び代表役員の地位にあつたことは認めるが、現在もその地位にあることは否認する。

同2の事実は認める。

(本案前の抗弁)

1 被控訴人は、従来から代表役員の地位確認を求め、当審において更に主任教師の地位確認を求めるものであるが、それは訴の追加的変更であるところ、右両訴は請求の基礎を異にするから許されない。

2 宗教法人「日本基督教会住吉教会」規則(以下「控訴人規則」という。)七条によつて明らかなとおり、代表役員となるためには、主任教師の資格を有することが要件であり、しかも、主任教師の任免権は日本基督教会近畿中会(以下「近畿中会」又は「中会」という。)にあつて控訴人にはない。したがつて、本訴において、主任教師の地位確認の請求が認容されたとしても、その効果は被控訴人と控訴人との間で生ずるにすぎず、主任教師を選任した近畿中会ないし日本基督教会には及ばないから、これによつて確認された主任教師の地位は空中楼閣にすぎないことになるし、また、主任教師は宗教上の地位、事項であつて、主任教師が教会から受ける金品はいずれも謝儀と指称され、教会員の感謝の印として贈与されているもので、報酬ではなく、教会との間に雇用契約があるわけでもない。主任教師の居住する建物についても、電気水道代等は一切教会が負担しており、借家契約等も存在しない。したがつて、主任教師の地位確認を求める本訴は、訴の利益を欠き不適法である。

3 被控訴人は、昭和四五年三月一九日になされた後記近畿中会の決議に従わずに、日本基督教会からの分離活動をなし、近畿中会の再三の忠告も無視して改めず、牧師就任当時の誓約に違背し、日本基督教会の信仰告白と日本基督教会憲法(以下「教会憲法」という。)を奉じないでウエストミンスター派教義を奉じて別個の教会を設立し、遂には日本基督教会に離脱届を提出し、日本基督教会よりの被包括関係廃止の公告にまで踏み切つたため、同年九月二九日右中会において、除名の戒規処分(以下「本件除名処分」ともいう。)に付され、日本基督教会大会に上告したが、同年一二月三日上告棄却となり、右処分は確定し、被控訴人は日本基督教会の教師資格を失つた。このように、被控訴人が控訴人の代表役員及び主任教師となるための基本的な資格である右教師資格を失つたものである以上、右教師資格の存することを確定せずして本訴請求をなすのは失当であり、その余の本訴請求も訴の利益がない。

(本案の抗弁)

1 近畿中会は昭和四五年三月一九日の定期総会で、日本基督教会規則(以下「規則」という。)五条三項により「住吉教会は独立教会としての組織を維持するに足る実力を欠くに至り、また当分の間長老を選出して小会を組織することができない状態にあるので、本中会はこれを解散して伝道教会とすることを建議する。」旨の建議案を可決した(以下「本件解散決議」という。)。

右建議案が提出されるに至るまでの事情の詳細は次のとおりである。

控訴人においては、昭和三九年に被控訴人が控訴人の主任教師(牧師)に就任して一、二年も経たない間に、被控訴人の偏ぱな考えに端を発し、教会の長老が次々と辞任するに至り、昭和四〇年すぎころからは、ほとんど小会の機能を発揮できないようになつた。そこで、当時近畿中会においては、当時の被控訴人牧師の下になんとか円満に長老を選出すべく近畿中会を挙げて努力したが、長老の選出は、規則二二条五項にあるとおり、会員の三分の一以上の出席をもつて、その投票の三分の二以上の投票がなければ無効であるから、実際面においては、会員の絶対多数が長老によつて補佐しようとする牧師の人格を信じ、これを支持する状態にない限り、長老を選出することは困難であり、昭和四五年一月二五日の定期総会においては、長老選出のため六名連記の投票を五回繰返して行つたが、一名の長老も選出することができなかつた。このようなことは教会員の牧師に対する不信任の表明であるから、いやしくも信仰を基盤として立つ良識のある牧師であるならば、この時点においてみずから身を退くのが常識である。しかるに、被控訴人は教会財産に執着して退任せず、他方、長老は任期満了に至らない唯一人の長老を残すのみであつて、当時三〇〇名近くの会員を擁する教会としては、小会としての機能を果すことができなくなつた。この間、近畿中会としては、あらゆる立場から控訴人の正常化を計つたが、その効果がなかつた。

2 本件解散決議により、控訴人は独立教会ではなくなり、規則一条四項の伝道教会として近畿中会の直轄に属することになつたものであるが、これによつて被控訴人の控訴人における主任教師としての地位は失われた。なお、右決議と同時に近畿中会は被控訴人について牧師(主任教師)を解職する旨の決議(以下「本件解職決議」という。)もなし、近畿中会より被控訴人に対し牧師解職の通知が発せられた。

なお、教会の主任教師と宗教法人の代表役員とは異なるものである。主任教師は全くの宗教上の地位であるのに対し、代表役員は宗教法人法上の法律上の地位であり、控訴人規則においては後記のとおり主任教師をもつて充てることになつているが、主任教師即代表役員ではない。したがつて控訴人規則中に法一二条一項一二号にいう相互制約規定のないのは当然である。

3 控訴人規則七条一項には「代表役員は主任教師をもつて充てる。」と規定しているから、右のように被控訴人が牧師(主任教師)の地位を失つたことによつて、被控訴人は当然に控訴人の代表役員の地位も失うに至つた。

4 そこで、近畿中会は前記総会終了後引続きその常置委員会(中会常置委員会の行う権能については、中会からの一般的委任がある。)を開催して、当時の近畿中会議長であつた丹波恵を控訴人の主任教師に任命し、丹波恵は控訴人規則七条に基づき控訴人の代表役員に充てられ、被控訴人主張のように、同年九月二九日代表役員大崎良三(被控訴人)解任、代表役員丹波恵就任の登記を経由したものであつて、この事実は昭和四六年三月二三日開催の近畿中会定期総会においても確認されている。

5 仮に、前記本件解散決議ないし解職決議に伴う地位喪失の抗弁が認められないとしても、被控訴人は、前記本案前の抗弁のとおり昭和四五年九月二九日本件除名処分を受け、日本基督教会教師資格を失つたため、控訴人の主任教師及び代表役員の地位も失つた。

6 控訴人は、前記のとおり、昭和四五年三月一九日以降伝道教会となり独立教会ではなかつたが、その後、近畿中会において、独立教会としてその組織を維持するに足る実力を有するようになつたため、昭和五〇年一月一五日近畿中会に対し教会建設願を提出し、同日これが受理可決されたので、同日以降控訴人は再び独立教会となつた。したがつて、伝道教会教師であつた丹波恵は同日控訴人の主任教師を退任し、同時に代表役員も控訴人規則七条により退任となつた。同月二〇日控訴人より近畿中会に対し主任教師招へい願が出され、同日近畿中会において控訴人代表者田口光秀を控訴人の主任教師として選任可決した。控訴人は、同年四月二〇日教会建設式を挙行し、主任教師田口光秀を控訴人の代表役員に充てることを決めた。そして、被控訴人主張のとおり同年八月四日代表役員丹波恵退任、代表役員田口光秀就任の登記がなされた。

三  被控訴人の、控訴人の抗弁に対する答弁及び再抗弁

(本案前の抗弁に対する答弁)

1 抗弁1の主張は争う。

2 同2の主張も争う。

控訴人における主任教師の地位は、礼拝、教義、儀式の執行等宗教上の地位とともに、主任教師が同教会から毎月報酬(謝儀と称されていることは認める。)を受ける権利、慣習として同教会内建物に居住する権利その他の権利関係に立つから、主任教師の地位は法律上確認の利益がある。

3 同3の事実のうち、被控訴人が昭和四五年九月二九日近畿中会において本件除名処分に付され、日本基督教会大会に上告したが、同年一二月三日これを棄却されたことは認めるが、その余は争う。

控訴人は、日本基督教会の教師資格の確定を求めなければ本訴請求の利益がない旨主張するが、教師資格の有無は宗教上の問題であつて法律上の問題ではないから、裁判上確認を求める利益がない。除名は規則一九条の戒規の一つである。同条によれば、戒規とは被戒規者が悔改めることを求めるためのもので、悔改めたと認めたときは戒規を解除できる。また、戒規は被戒規者に悔改めの機会を与えるという純粋に宗教的なもので法律的な意味はない。

しかも、右教師資格のはく奪は、被控訴人が本件解散決議ないし本件解職決議に従わなかつたことを理由とするものである。そして、本件においては、右決議により被控訴人が控訴人の主任教師(代表役員)を解任されるかどうかが争われているのである。右のように、右決議の有効無効が争われている最中に、控訴人は、被控訴人が右決議に従わなかつたことを理由に本件除名処分をなし、右処分をしたから本件確認の請求は訴の利益がないと主張するもので、右主張はそれ自体失当である。

(本案前の抗弁に対する再抗弁)

本件除名処分は宗教法人法(以下単に「法」ともいう。)七八条に違反し無効である。

包括団体たる日本基督教会の近畿中会は、後記のように昭和四三年ころから被包括団体たる控訴人に介入し、その信教の自由を侵してきた。そこで、控訴人の主任教師たる被控訴人及び一部住吉教会員は、信教の自由を守るため、日本基督教会との被包括関係から離脱の動きを始めた。これに対し、近畿中会は、控訴人の右離脱の動きを察知し、離脱妨害を目的として本件解散決議、本件解職決議をなした。

しかし、その後控訴人において、昭和四五年九月一六日離脱のための臨時総会開催公告を行い、同月二八日臨時総会を開催し、日本基督教会との包括関係廃止を決議し、同日その旨日本基督教会に通知し、信者その他利害関係人に規則変更案の要旨を公告したところ、これに対し、離脱妨害を目的として本件除名処分がなされたもので、これは法七八条に違反し無効である。

(本案の抗弁に対する答弁)

1 抗弁1の本件解散決議がなされたことは認める。同2の事実は否認する。同3の事実及び主張のうち、控訴人規則に控訴人主張の規定があることは認めるが、その余の主張は争う。同4の事実は否認し、同5の事実中、被控訴人が本件除名処分を受けたことは認めるが、その余は争い、同6の事実は否認する。

2 本件解職決議の不存在

本件解職決議はなされていない。

昭和四五年三月一九日の近畿中会における建議案の内容は控訴人主張のとおりであるが、右建議案の審議中「住吉教会を解散して伝道教会とすると大崎牧師はどうなるか。」と質問があり、これに対し近畿中会常置委員が「教会を解散して伝道教会にすると当然牧師は解職になる。」と答え、これについては採決も行われないまま議事が進行している。要するに、近畿中会では建議案の採決は行われたが、主任教師解職についての決議は全くなされていない。

3 解散の実質的理由の不存在

住吉教会解散の理由は、「住吉教会は独立教会としての組織を維持するに足る実力を欠くに至り、また、当分の間長老を選出して小会を組織することができない状態にある。」というものである。しかし、当時住吉教会は、近畿中会三十数個の教会中実力第二位の教会であつたし、また、住吉教会には常時二名以上の長老がおり、たまたま昭和四五年一月に辞任したため、長老一名という状態が生じていたにすぎない。小会を組織できないとしても、その期間はわずか二か月であり、総会を開いて選挙すれば、長老は必ず選出できたのであつて、教会を解散させなければならないほどの事由はなかつた。

4 本件解散決議によつては解職の効力は生じない。

本件解散決議によつては、控訴人の主任教師即代表役員は解職にならない。右決議により控訴人の宗教的な評価が教会から伝道教会に格下げされたとしても、控訴人は引続き格下げされた住吉教会の主任教師であり代表役員である。ただ、従前住吉教会と呼ばれていたのが住吉伝道教会と呼ばれるのに伴い、主任教師の呼称も従来の牧師が格下げされて宣教教師と呼ばれるようになるにすぎない。

5 近畿中会は住吉教会の主任教師の任免権を有しない(規則一〇条一項の適用はない。)。

法一二条一項一二号によれば、宗教法人が代表役員の任免につき、他の宗教団体や機関によつて制約される事項を定めたときは、その事項を相互の宗教法人の規則に掲げて、所轄庁の認証を受けなければならないとされている。控訴人においては、主任教師即代表役員であるから、主任教師の任免については代表役員の任免に関する宗教法人法の前記規定が適用される。しかし、規則及び控訴人規則のいずれにも制約事項は定められていない。したがつて、日本基督教会は、控訴人の主任教師(代表役員)を任免することも、任免に制約を加えることもできない。控訴人のいう控訴人規則三二条一項は一般的規定で、法一二条にいう制約事項を掲げたことにならない。

また、規則一〇条一項では、被包括教会の主任教師の任免に所轄中会の可決を条件と定めているが、同条は、日本基督教会の法人規則すなわち宗教法人「日本基督教会」規則(以下、法人規則という。)及び控訴人規則が現在のままである限り、法一二条に照らし、住吉教会には適用されない。

6 丹波恵を主任教師に選任する決議の不存在

近畿中会常置委員会で丹波恵を主任教師に選任してはいない。主任教師代務者に選任したにすぎない。本件代表役員の変更登記申請に際し添付された、昭和四五年三月一九日近畿中会終了後別に近畿中会が開催され、同中会で丹波恵を主任教師に任命した旨の議事録は偽造されたものである。

7 本件除名処分は、本案前の抗弁に対する答弁で述べたとおり、純粋に宗教的なもので法律的な意味はない。

(本案の抗弁に対する再抗弁)

1 本件解散決議は次の理由により無効である。

(一) 手続違反

前記建議案については、近畿中会常置委員とごく一部の中会議員が事前に知つていたが、当事者である住吉教会員や被控訴人にも、また、他の近畿中会議員にも全く知らされていなかつた。独立の自治団体を解散して格下げするということは、当該自治団体にとつて重大問題であり、当然事前に予告されなければならない。また、規則二条一、二項によれば、伝道教会が独立教会に昇格するときは、伝道教会員一同署名のうえ中会へ願出で、中会の承認を得る旨定められている。格下げの時も当然それと同じ手続ないし教会の総会決議が必要である。しかし、住吉教会員は格下げについて考えたことすらなく、もちろん総会でその旨の決議などしていない。右手続の不備は決定的で解散決議は効力を生じない。

(二) 法七八条違反

本件解散決議は法七八条に違反し無効である。

包括団体たる日本基督教会の近畿中会は昭和四三年ころから被包括団体たる控訴人に介入し信教の自由が侵されてきた。そこで、主任教師たる被控訴人及び一部住吉教会員は、信教の自由を守るため、日本基督教会との被包括関係離脱の動きを始めた。そして、控訴人は昭和四五年九月一六日離脱のための臨時総会開催公告を行い、同月二八日臨時総会を開催し、日本基督教会との包括関係廃止を決議し、同日その旨日本基督教会に通知し、信者その他利害関係人に規則変更案の要旨を公告したが、右離脱の動きを察知した近畿中会は、右通知の約六か月前である同年三月一九日、離脱妨害を目的として住吉教会を解散して伝道教会とする旨の決議を行つたものであるから、右決議は、法七八条に違反し無効である。

2 本件解職決議は次の理由により無効である(本件解散決議により解職の効力が生ずるとしても同様である。)。

(一) 解職決議によつても解職の効果は生じない。

控訴人と控訴人主任教師(代表役員)との間の法律関係は委任類似の契約関係にあり、契約当事者以外の近畿中会が勝手に控訴人の主任教師を任免しても、当事者に対しなんらの効果も及ぼさない。

(二) 解職の実質的理由の不存在

日本基督教会には契約解除の権限がないことは前記のとおりであるが、契約の当事者が行つたとしても、本件解職は不当である。控訴人と控訴人主任教師(代表役員)との間の法律関係は、受任者の利益も目的とした有償委任である。したがつて、契約の当事者である控訴人が主任教師を解職する場合であつても、やむを得ない事由がない限り、委任契約を解除し、主任教師を解職することはできない(このような場合には、民法六五一条によるべきでなく、請負についての同法六四一条、雇用についての同法六二七条、六二八条が準用される。)。被控訴人は、もつとも聖書に忠実な牧師といわれ、控訴人の主任教師(代表役員)として、極めて誠実に職務を行い、私生活も牧師にふさわしく清廉潔白である。いかなる点をとつても、解職される理由はない。本件はむしろ日本基督教会による控訴人所有不動産の乗取りのために行われたものである。

(三) 法七八条違反

前記のとおり、控訴人は、信仰の自由を守るため、かねてより日本基督教会からの離脱を図つていたところ、日本基督教会はいち早くその動きを察知し、離脱妨害を目的として、主任教師(代表役員)たる被控訴人を解職したものであるから、右解職は無効である。

3 丹波恵を主任教師に選任する決議は次の理由で無効である。

(一) 前記2(一)のとおり近畿中会(常置委員会)には主任教師の任命権はない。

(二) 後任の主任教師の選任は、前任者の解任が有効になされて始めて認められるものであるが、被控訴人の主任教師即代表役員の解任が無効であることは前記のとおりであるから、その後の主任教師即代表役員の選任はすべて無効である。

(三) 法七八条違反

右主任教師選任の決議は控訴人の包括関係の廃止を妨害する目的でなされたものであるから法七八条に違反し無効である。

4 本件除名処分は、本案前の抗弁に対する再抗弁で述べたとおり、法七八条に違反し無効である。

5 控訴人代表者田口光秀を主任教師に選任する決議は次の理由で無効である。

(一) 前記のとおり、田口光秀の前任者丹波恵の主任教師即代表役員の選任決議は、不存在ないし無効であるから、右選任決議の有効を前提とする田口光秀の選任は無効である。

(二) 田口光秀の主任教師即代表役員の選任は、控訴人及び同代表役員職務代行者の全く関知しないものである。近畿中会は、神戸地方裁判所の仮処分決定を無視して、丹波恵が住吉教会の主任教師即代表役員であると主張し、右主張に賛同する一部有志を集めて、控訴人(高辻弁護士を代表役員職務代行者とする。)とは全く別個の教会を作り、住吉伝道教会と名付けた。そして、別個の教会の議事録をあたかも控訴人の議事録のごとく作成して法務局へ提出し、控訴人の代表役員を丹波恵から田口光秀へ変更する旨の登記手続を行つた。独立した宗教法人の代表役員が、他団体の決議により勝手に変更されるはずはなく、右代表役員の変更は無効である。

四  控訴人の、被控訴人の再抗弁に対する答弁

1  本件解散決議に手続違反はない。

被控訴人は本件解散決議の無効を主張するが、一定の事項すなわち主として宗教的な事項に関しては、控訴人は日本基督教会の規律に服するのは当然である。したがつて、控訴人は、控訴人規則三二条においても、日本基督教会の規則中控訴人に関係ある事項に関する規定はこの法人についても効力を有する旨規定し、右趣旨を明確にしている。

そして、中会の総会において決議をする場合に、中会提出議案については、民間の株主総会のごとくあらかじめ議案を示さなければならないという規則もなく、株主総会の議案などとは根本的にその性質を異にするのであるから、あらかじめ議案を示す必要はない。しかも、議案の提出に至るまでには、常置委員会において尽すべき手続を尽しており、建議案が突如として提示されたものでないことは、被控訴人の知悉するところである。また教会の解散について、伝道教会の昇格の場合と同じ手続を取らねばならないとする規定は全く存しない。なお、本件において、建議案の議決につき、仮に手続上の瑕疵があつたとしても、それ自体によつて直ちに決議が無効になるものではない。

2  主任教師と控訴人との間に委任等の法律関係はない。仮にあつたとしても、本件解職決議には影響を及ぼさない。仮にそうでないとしても右解職決議により右関係も解消される。

日本基督教会において、控訴人の主任教師として任職された者と控訴人との関係は、雇用、委任等に基づくものではなく、あくまでも教師の召命観に基づく奉仕であるから、これはあくまでも宗教上の問題であつて法律上の問題ではない。仮に、主任教師と教会との間に雇用、委任等なんらかの法律上の関係があつたとしても、これによつて日本基督教会はなんら法律上の規制を受けるものではない。

また、主任教師と当該教会との間の委任等の法律関係は、その前提となる宗教関係の存否に付随するものであつて、宗教関係が断ち切られた時は、それらの関係もまた解消されるものである。仮に、そうでないとしても、宗教関係が解消された時は、法律上の関係もまた解消するものであるとの合意が、当該主任教師と教会との間になされているものである。したがつて、被控訴人が控訴人の主任教師を解職されたのみならず、日本基督教会の教師資格をもはく奪されたことにより、被控訴人と控訴人との社会的関係(法律関係)も当然解消又は合意解除となつた。

3  田口光秀選任決議は代行者の権限に背ちするものではない。

日本基督教会は、各個教会の主任教師は選任するが、代表役員の選任には関係がないことは前述のとおりである。そして、控訴人代表役員職務代行者なるものは、裁判所より命ぜられた代表役員の職務を代行する者であり、代表役員の職務権限は法一八条に定められたとおりであつて、特に同条六項には「その事務に関する権限は、当該役員の宗教上の権能に対するいかなる支配権その他の権限も含むものではない。」とされ、同五項には、包括団体が定めた規程に従い、宗教上の規約、規律、慣習及び伝統を十分に考慮するよう定められている。したがつて、代行者の権限は宗教上の事項を掌る主任教師の権限に介入することは許されない。日本基督教会が宗教上の事項に関する主任教師の更迭を行うことは、代行者の権限にはなんら背ちするものではない。これに基づき控訴人が当該主任教師を代表役員として受入れることもなんら差支えない。

4  本件解散決議、本件解職決議、丹波恵選任決議、本件除名処分は法七八条に違反しない。

被控訴人は、控訴人が日本基督教会に入ることも離脱することも自由であり、日本基督教会はこれを制約できないと主張する。しかし、控訴人は日本基督教会の被包括団体であるから、一定の事項、主として宗教性の事項に関しては、同教会は控訴人を指揮監督しうるものである。また、包括団体と被包括団体との関係は、被包括関係の設定という契約により成立する。したがつて、包括関係を廃止するというようなことも、被控訴人のいうがごとく無制限に自由にまた一方的な意思によつて許されるものではない。法二六条四号の規定は右のごとき趣旨を現わすものである。被控訴人は、被控訴人の解任及び丹波恵の就任は、住吉教会の包括関係廃止の妨害を目的としたものであるかのごとく主張するが、被包括関係の廃止が認められるのは、信教の自由に関する場合のみにおいてである。包括の結果、被包括団体は、包括団体が一派の組織運営及び活動推進のために定める規律によつて種々制約を受けることになるのは当然のことである。もし包括関係というものが、被控訴人のいうようになんらの権限関係を持たないものであるならば、なんのために包括関係を持つのか全く意味をなさなくなり、わざわざこれを法律に規定する必要はない。控訴人は控訴人規則三二条において規則を適用しているのであるから、当然規則によつて拘束される。

被控訴人のいう近畿中会の信教の自由介入については、具体的な主張がないように、近畿中会は被控訴人らの信教の自由に介入したことは全くない。のみならず、昭和四三年ころより台頭してきた大部分の教会員の被控訴人に対する不信任の情勢を近畿中会はなんとかして正常な状態に戻すべく、被控訴人や多数の教会員の要請により長老選出その他に絶大な力添えをしてきたのである。牧師解職となり、権限のない被控訴人が、総会を招集し包括関係廃止の決議をしたのは昭和四五年九月二八日のことであるが、それよりも六か月も前に、しかも近畿中会が住吉教会を正常化しようとして被控訴人に対し懸命の助力をしている最中に、被控訴人が包括関係を離脱しようという意図を抱いているなどとは考えられるはずもなく、仮に当時被控訴人がそのような意図を抱いていたとしても、それが外観上表われていないのに、このような意図を察知できるはずがない。したがつて、昭和四五年三月一九日の近畿中会の被控訴人に対する牧師解職は法七八条にいわゆる離脱阻止を目的としてなされたものではない。また、中会の処置は、主任牧師の解職であつて、右七八条にいう役員の解職ではない。一方、被控訴人のなした離脱と称するものは、反対派の責任役員を無視し、自分に賛成する者のみを集めて総会と称するものを招集したにすぎず、法所定の被包括関係廃止の手続を履践しないでなされたものであり、また、当時被控訴人は既に主任教師資格を失い代表役員の職務権限をも喪失していたのである。しかも、被控訴人は個人として、宗教的には、日本基督教会の信仰告白と憲法規則を奉じこれを遵守することをみずから放棄しながら、控訴人の「日本基督教会住吉教会」なる名称にのみ固執して、これを潜称しているものである。このように、控訴人とは異なる被控訴人の日本基督教会住吉教会には、法七八条の適用される余地はない。要するに、右七八条は、被控訴人があくまでも日本基督教会の秩序の中にとどまりながら法律上の手続を履践して離脱を図らんとしているのに、これを防ぐことを目的として法人規則上の役員(牧師、主任教師ではない。)を解任されたという場合に適用されるのであつて、本件のごとく被控訴人がみずから日本基督教会の秩序に服さず、離脱を声明して日本基督教会を飛び出したような場合には適用されないのである。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

第一本案前の主張について

一主任教師の地位確認の訴の追加的併合の許否について

控訴人は、被控訴人の当審における同人が控訴人の主任教師であることの確認を求める追加的請求は、従前の代表役員の地位確認の請求と請求の基礎を異にするので、許されない旨主張する。

しかし、被控訴人の従前の請求である登記抹消請求及び代表役員の地位確認の請求はいずれも被控訴人が控訴人の代表役員であることを前提ないし原因としているものであることはその主張自体から明らかであるところ、右代表役員と右追加的請求の主任教師の関係は、〈証拠〉によれば、控訴人規則第七条には「代表役員は主任教師をもつて充てる。」と定められていることからも明らかなように、主任教師は代表役員であるための必すの要件をなすものであつて、右代表役員の地位確認の請求と主任教師の地位確認の請求とはなんら請求の基礎を異にするものではないし、また後者の請求の追加によつて著しく訴訟手続を遅滞せしめないことも明らかであるから、控訴人の右主張は理由がない。

二主任教師の地位確認の訴の利益の存否について

1  〈証拠〉によれば、

(一) 宗教団体としての日本基督教会は、これを組成する宗教団体としての個々の教会及び伝道教会から成り(教会憲法一条、規則一条)、その代議機関として、伝道教会には宣教教師とその伝道教会の総会で選挙された委員とで組織する委員会が、教会には牧師とその教会の総会で選挙された長老とで組織する小会が、その上に五個以上の教会の教師及び各教会から選出した長老及び伝道教会から選出した委員で組織する宗教団体である日本基督教会の機関としての中会が、更にその上に、日本基督教会の最上位の機関として、教師、各教会から選出した長老及び各伝道教会から選出した委員を以て組織する大会がそれぞれ置かれ、右小会、中会及び大会によつてその権能を行うことになつていること(教会憲法四条、規則一六条、二三条ないし二五条)、

(二) 教会は、中会の一般的な監督、指導は受けるが、その会員数においても、資力においても、一個の自治団体である資格を持つている(教会憲法四条、規則一条一項)のに対し、伝道教会はその実力がまだ小会を設けて組織を完備する程度に達していない教会を指し(規則一条三項)、中会の直轄に属してその監督指導を受ける(同一条四項)点において独立の教会とは異なるものとされていること、

(三) 教師、牧師については、「教師は、規則に従い按手礼をもつて聖職に任ぜられたものであり、一個もしくは数個の教会を牧することに任ぜられた教師を牧師といい、中会の命によつて、牧師のない教会を監督し、または伝道に従事する教師を宣教教師といい、大会において認可された神学校の教授である教師を神学教師という。」ことになつており(教会憲法七条)、教師の試験、任職については、試験は試験条例によつて、大会がこれを行い、その任職は中会が、大会の試験に合格した教師志願者であつて、牧師・宣教教師・神学教師の職につくものの任職式を執行する。教師志願者は、日本基督教会の信仰の告白・憲法・規則を誠実に遵奉しまたすべて教師としての職分を忠実につくすことを公けに誓約しなければならない旨定められており(規則八条)、牧師の選挙、就職については、規則九、一〇条で、「牧師の選挙は、規則二二条に従つて開かれた総会において行わなければならないし、教師が教会の招へいを受けて牧師になろうとするときには、教会の選定した委員とともに、所属中会に願い出、中会がこれを可決すれば、委員を挙げて就職式を執行する。」旨定められていること、

(四) 他方、宗教団体としての日本基督教会の目的を達成するための財務その他の業務及び事業を行うことを目的として、宗教法人日本基督教会が設立されており(法人規則参照)、また、宗教団体たる日本基督教会を組成する個々の教会、伝道教会の目的を達成するための財務その他の業務及び事業を行うことを目的として、個々の宗教法人である教会及び伝道教会が各個に設立されており(控訴人の場合につき控訴人規則参照)、宗教法人日本基督教会と宗教法人である個々の教会及び伝道教会とは包括、被包括の関係にあること(法人規則三条、一五条、控訴人規則三条、三二条等)、

(五) 日本基督教会においては、伝道教会の場合でも宗教法人の名称としては単に「○○教会」とし「○○伝道教会」とはしないし、各個の教会における法人規則(控訴人規則もこれに該当)における「主任教師」の名称は、教会における牧師、伝道教会における宣教教師のいずれの場合にも用いることになつていること(法人規則二一条、日本基督教会会報第五号)、

が認められ、これに反する証拠はない。

2  そして、以上認定の事実関係及び〈証拠〉によれば、法人規則(以下これを「前掲の法人規則」という。)や控訴人規則(以下これを「前掲の控訴人規則」という。)にも、教会の財産の管理運用などは宗教法人としての教会の役員(代表役員等)がこれに当ることとされていて、教師ないし主任教師がその資格でこれに関与することを定めた規定がないこと及び教師ないし主任教師が宗教的活動の主宰者たる地位以外に独自に財産的活動をすることのできる権限を有する旨の主張・立証もないことを併せて考えると、宗教団体としての控訴人教会ないし日本基督教会における教師ないし主任教師というのは聖職であつて、宗教的活動の主宰者たる宗教上の地位にとどまるものというべく、たとい主任教師は代表役員であるための必すの要件をなすもので、主任教師たる地位が代表役員たる地位を兼ねることはあつても、両者は別個独自のものであり、かかる地位にある主任教師の地位確認の訴は確認の訴の対象となるべき適格を欠くものに対する訴として不適法というべきである(最高裁判所昭和五五年一月一一日判決、民集三四巻一号一頁参照)。

もつとも、被控訴人は、控訴人における主任教師の地位は、宗教上の地位とともに、主任教師が控訴人から毎月報酬を受ける権利、慣習として控訴人教会内建物に居住する権利その他の権利関係に立つから、法律上確認の利益があると主張するが、宗教上の地位から派生する経済的、世俗的社会生活上の利益が多少でも存在すれば、宗教上の地位につき裁判所の確認判決の対象たる適格があると解するのは相当ではないし、また主任教師という宗教上の地位から被控訴人主張のような権利関係が派生し、その権利関係につき確認の必要があるのであれば、端的にその権利関係自体を確認の訴の対象とすれば足りるのであつて、あえて主任教師の地位につき確認を求める要はないものというべきである。

3  そうすると、被控訴人が控訴人の主任教師であることの確認を求める訴は、その余の判断に及ぶまでもなく、確認の訴の対象たるべき適格を欠き不適法として却下を免れない。

三その余の本訴請求の訴の利益の有無について

控訴人は、被控訴人は本件除名処分により日本基督教会の教師資格を失つたので、右教師資格の存在を確定せずして本訴請求をなすのは失当であり、その余の本訴請求も訴の利益がない旨主張するが、本件除名処分が無効であることは後記本案で認定判断のとおりであるから、同処分が有効であることを前提とする控訴人の右主張は失当である。

第二本案について

一被控訴人が昭和三九年一一月一四日控訴人の主任教師(牧師)に任命され、同時にその代表役員に就任して各その地位にあつたこと及び神戸地方法務局昭和四五年九月二九日受付代表役員大崎良三解任及び代表役員丹波恵就任並びに同法務局昭和五〇年八月四日受付代表役員丹波恵辞任及び代表役員田口光秀就任の各登記(本件名登記)がなされていることは当事者間に争いがない。

二そこで、控訴人の、本件解職決議ないし本件解散決議に伴う被控訴人の牧師(主任教師)及び代表役員の地位喪失の抗弁について判断する。

1  まず、本件解職決議がなされたことについては、本件全証拠によるもこれを認めるに足りない。

よつて、右決議の存在を前提とする控訴人の主張はその余の判断を待つまでもなく理由がない。

2  次に、本件解散決議についてみてみるに、控訴人主張のように本件解散決議がなされたことは当事者間に争いがないところ、前掲の乙第一号によれば、規則(以下これを「前掲の規則」という。)五条三項には「その組織を維持するに足る実力を欠くに至つた教会は、中会がこれを解散し伝道教会とすることができる。」との定めがあるから、右解散決議が有効である限り、独立教会は伝道教会に格下げされたことになる。

(二) そこで、本件解散決議の効力についてはしばらく措き、中会が独立教会を解散して伝道教会とした場合の独立教会の牧師の地位について検討する。

(1) まず、牧師の任免、辞職等に関する規定についてみてみるに、(ア)前掲の規則九条には前記のように「牧師の選挙は規則二二条に従つて開かれた総会において行わなければならない。」と規定されており、(イ)また、前掲の規則一〇条一項には「教師が教会の招へいを受けて牧師となろうとするときには、教会の選定した委員とともに、所属中会に願出でなければならない。中会はこれを可決すれば、委員を挙げて就職式を執行する。」との規定があり、(ウ)更に、前掲の規則一一条には「牧師の辞職は、規則二二条に従つて開かれた教会の総会において、諾否を議決しなければならない。(中略)その議決は、少なくとも投票の三分の二に達しなければ無効である。牧師が教会の承諾を得て辞職しようとするときには、教会の選定した委員とともに、所属中会に願出でなければならない。中会は、これを可決すれば、委員を挙げて教会および牧師に通知し、またその教会の小会と協議して、善後の処置をしなければならない。」との規定があるが、牧師の就職、解職については、前掲の乙第一号証によれば、教会憲法(以下これを「前掲の教会憲法」という。)四条に牧師の就職、解職は中会の管掌事項である旨規定されているほかは、他になんらの規定も設けられていない。

(2) ところで、被控訴人は、法一二条一項五号所定の代表役員等の任免等に関する同項一二号所定の制約事項の定めは、規則及び控訴人規則のいずれにも存在せず、控訴人規則三二条は一般的規定であつて右にいう制約事項の定めとはいえないから、規則一〇条一項の規定は住吉教会には適用されない旨主張し、他方、控訴人は、右法条は同法条五号所定の代表役員等に関しては規定しているが、牧師(主任教師)に関しては規定していないのであるから、制約規定の存在しないのは当然である旨主張するので、これについてみてみるに、

(ア) 法一二条一項五号、一二号によれば、「右五号所定の代表役員等の資格及び任免に関する事項」について、他の宗教団体を制約し又は他の宗教団体によつて制約される事項を定めた場合には、その事項を規則に記載することが要求されているところ、控訴人の場合には、前記のように控訴人規則七条一項に「代表役員は主任教師をもつて充てる。」との規定があるのであるから、もし、主任教師の任免に関する事項について他の宗教団体によつて制約される事項(以下「被制約事項」という。)を定めた場合にはそれを法一二条一項五号、一二号にいう「右五号所定の代表役員等の資格及び任免に関する事項」として、控訴人規則中に記載する必要があることになり、そして、規則九条、一〇条一項及び一一条二項はまさに牧師の任免に関する被制約事項の定めであるから、これについて控訴人規則中に記載する必要があるものというべきである。

(イ) ところで、前掲の控訴人規則三条には、(包括団体)との標題のもとに「この法人の包括団体は、宗教法人「日本基督教会」とする。」、また同三二条には(包括団体の規則の効力)との標題のもとに「日本基督教会の規則中この法人に関係がある事項に関する規定は、この法人についても、効力を有する。」との規定があり、他方、前掲の法人規則三条には「この法人は(中略)この教会の規定である憲法及び規則に従い、基督教の教義をひろめ、儀式行事をおこない、信者を教育訓練し、教会を包括し、その他この教会の目的を達成するための財務その他の業務及び事業を行うことを目的とする。」、一五条には「この教会が包括する教会は、教会及び、伝道教会の二種とし、教会及び伝道教会の区別は、憲法及び規則に従い、その所属する中会の決定するところによる。」、一九条には「中会は、憲法及び規則に従い、教会及び伝道教会の代表者で組織し、重要事項を協議決定する。」、二〇条には「小会、憲法及び規則に従い、教会の牧師及びその教会の総会において選挙された長老で組織し、その教会に関する事項を管理運営する。」、二一条には「委員会は、憲法及び規則に従い、伝道教会の主任教師及びその伝道教会の総会において選挙された委員で組織し、その伝道教会に関する事項を管理運営する。」との規定がある。

(ウ) そして、以上(ア)、(イ)の事情を合せ考えれば、控訴人規則三二条は、規則九条、一〇条一項、一一条二項による被制約事項の定めを記載した規定であると解するのが相当であり、控訴人規則三二条が、一般的規定であるからといつて、当然に効力がないとはいい難く、規則一〇条一項の規定は控訴人に適用されないとの被控訴人の主張は採用できない。

(3) そして、規則の各規定によれば、中会が各教会の牧師を任免するには、少なくとも規則九条、一〇条一項、一一条等の手続に従うことを要し、中会において、各教会の意思に基づかずに一方的にその牧師の任免を行うことは、規則の予想しないところといわなければならない。

前記のとおり、教師の任職は、規則上日本基督教会の独自の意思でこれを行うことができ、また、前掲の規則一九条は、一定の事由があるときに中会が戒規処分により教師資格を奪うことを認めているが、そのことのゆえに、中会が各教会の牧師について当然に任免権を有するものとは解し難い。

なお、教会憲法は、前記のように牧師の就職、解職を中会の管掌事項と定めているところ、その規定は極く簡単であつてその趣旨必ずしも明らかではないが、規則九条、一〇条一項、一一条の規定の内容に照らすときは、右にいう管掌とは全面的な管掌を意味するものではなく、右規則に規定された趣旨での管掌を意味するものと解されるから、教会憲法四条の右規定は前記解釈の妨げとなるほどのものではない。

前記認定事実、前掲の法人規則、控訴人規則のほか、〈証拠〉を総合すれば、宗教法人日本基督教会と宗教法人たる各教会とは包括、被包括の関係にあるが、各教会は教会の敷地、建物等の財産を所有し、牧師の報酬を含め教会のすべての経費を負担し、中会の経費も各教会がその負担金、献金によつて賄い、また、各教会はその意思に基づいて招へいした牧師と教会員の中から選出された長老によつて小会を組織して教会の運営を行うことが認められ、他方、包括団体たる宗教法人日本基督教会は中会を通じて各教会に対し一般的な監督指導はこれを行うけれども、各教会の運営に関しては各教会の独立性が可及的に尊重される制度になつていることが認められるが、このこともまたこれを裏付けるものということができる。

(4) そこで、以上の判断を踏まえ、教会の解散決議によつて伝道教会に格下げされた場合の当該教会の牧師の地位について考えてみるに、

(ア) 前記認定事実に、前掲の教会憲法、規則、法人規則を合せ考えれば、伝道教会はその実力がまだ小会を設けて組織を完備する程度に達していない教会であつて、中会の直轄に属し、その監督指導を受けるものであるが、会務はその教会の委員がこれを掌り、すべて教会に関する規定の原則は伝道教会にも適用される(規則一条)ものとなつているところ、これを教会と対比してみると、伝道教会には牧師はいないが、それに代わるものとして中会の命によつて伝道に従事する教師たる宣教教師があり(教会憲法七条)、同教師は伝道教会の主任教師となり、(法人規則二一条)、長老はないが、それに代わるものとして委員があり、小会はないが、それに代わるものとして委員会があり、委員会は宣教教師と委員とで組織され、その伝道教会に関する事項を管理運営するものであり、また、伝道教会にも総会があつて、委員は総会で選挙される(規則一六条、法人規則二一条)こと及び、教会から伝道教会への格下げによつてその実体が変るものでないことが認められ、これによれば、宣教教師の任免についても、牧師の場合と同様、中会はその意思だけで自由にその任免を行い得るものではないと解される。

(イ) そうすると、教会を伝道教会とすることは中会の権限でなしうるが、当該教来が伝道教会になると同時に、当時その教会の牧師ないし長老の地位にあつたものはそのまま宣教教師(伝道教会の主任教師)ないし委員としての地位にとどまるものと解するのが相当である。

(5) 以上の次第であつてみれば、本件解散決議によつて、控訴人が教会から伝道教会になり、これに伴つてそれまで控訴人の牧師であつた被控訴人が宣教教師と称されることにはなつても、被控訴人の控訴人における主任教師及びその代表役員たる地位にはなんらの変動もなかつたものと解するのが相当であり、したがつて、本件解散決議の効力について判断するまでもなく、被控訴人は本件解散決議によつて、控訴人の主任教師の地位を失い、それに伴つてその代表役員の地位も喪失するに至つた旨の抗弁は失当というべきである。

三よつて更に、控訴人の本件除名処分による被控訴人の牧師(主任教師)及び代表役員の地位喪失の抗弁について判断するに、被控訴人が控訴人主張の日に本件除名処分を受け、これに対し日本基督教会大会に上告したが、その主張の日にこれを棄却されたことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉を総合すれば、本件除名処分は被控訴人を宗教団体たる日本基督教会の教職籍から除名し、その教師資格を喪失させる効果を有し、それは被控訴人が控訴人の代表役員であるための必す不可欠の要件である被控訴人の控訴人における主任教師の地位の喪失につながるものであることが認められる。

四そこで、被控訴人の本件除名処分は法七八条に違反し無効である旨の再抗弁について検討する。

1  近畿中会が本件除名処分をなした理由の一つが、被控訴人が日本基督教会からの分離活動をなし、別個の教会を設立して遂には日本基督教会に離脱届を提出し、同教会との被包括関係廃止の公告にまで踏み切つたことにあることは控訴人においても自認するところであるし、前記認定事実並びに〈証拠〉を総合すれば、次の事実が認められ〈る。〉

(一) 控訴人教会は、大正年間に設立されて日本基督教会に加入し、宗教法人法の施行に伴つて宗教法人となり、同時に宗教法人となつた日本基督教会に包括されて、同教会近畿中会の一般的な監督指導を受けることになつた古い歴史を有する独立教会で、住吉教会と称し、阪神間に位置する地の利もあつて早くから多数の教会員を擁して財政的にも恵まれて、神戸市東灘区住吉町小原田一六一番の二、三に床面積183.53平方メートルの平家建教会と床面積一階92.74平方メートル、二階82.81平方メートルの木造瓦葺二階建居宅兼集会所及びその敷地1179.73平方メートルを所有し、昭和四三年当時その教勢も近畿中会所属の三十数教会で五指に入るまでに伸長していた。

(二) 被控訴人は、昭和三九年当時は近畿中会所属の四国観音寺教会の牧師であつたが、そのころ、被控訴人を控訴人教会の牧師として迎える旨の招へい決議があり、近畿中会もこれを可決し、牧師の任職を行つた。

被控訴人は、着任後熱心に布教活動に従事し、一般教会員の信望も得たが、信仰心、求道心がすぐれて強かつたこともあつて、程なく教会運営を巡つて一部の長老や有力者達と意見の相違を来たすことが多くなり、他面これにつれて、右一部の長老や有力者達に対し、特に長老は牧師を補佐して治会の任に当るべき立場にある(教会憲法九条)にもかかわらずその言動が牧師の立場を軽視し、専横であるとして、反発する一般教会員も多く、そのため控訴人教会内に、被控訴人支持派、反対派、中間派等が生じ、この傾向は日を追つて強まり、教会内部がまとまりを欠くようになつてきた。

そして、昭和四三年度の長老選挙においては、従前の一一名の長老のうち過半数を改選することとなつたところ、投票を繰返しても規定数(長老として選出されるためには、現住陪餐会員の三分の一以上が出席し、その三分の二の投票を必要とする。規則一五条、二二条)に達する者がなく、長老選出が不可能となつた。

そこで、被控訴人は近畿中会常置委員会に応援を依頼し、その指導でようやく一名の長老を選挙することができたが、昭和四四年度は、前年非改選の長老会員の任期が満了し、任期中の長老も辞任したため、控訴人教会の長老が全く存在しなくなつたにもかかわらず、これを選出することができないという異常事態にまで立ち至つたため、被控訴人は再び近畿中会の援助を要請した。

そこで、近畿中会常置委員会は、控訴人教会に議長団を送つて選挙を行つた結果、二名の長老が選出されたが、うち一名は程なく辞任したため、住吉教会は独立教会であるのに小会が事実上構成できないという事態となつた。

その後、近畿中会としても、被控訴人と協議を重ね事態の解決を図るべく努力したが、控訴人教会内部の事態は改善されず、昭和四五年一月に開かれた控訴人教会の総会においても、被控訴人反対派の策動もあり、法定得票数にわずかの不足で達することができず、前年同様長老が一名も選出できないという事態が現出し、長老が一人しかいないという状態は変わらなかつた。

そのため、規則所定の小数会員による長老選挙のための臨時総会開催の請求があり、これに基づいて長老の広瀬角治から近畿中会議長あての臨時総会開催願も出され、他方、前長老和田秀雄らはじめ教会員一二四名(当時の全教会員数は約四三六名)連名による近畿中会あての抜本的な問題解決と事態収拾を要望する旨の上告書も出された。

(三) これに対し、近畿中会常置委員会内部では、右のような控訴人教会内部の混乱の原因は、牧師の被控訴人が統卒力、指導力を欠く点にあるとする意見が次第に大勢を占めるようになり、控訴人教会を伝道教会にして中会直轄の監督指導下に置いてこれを運営することとし、そのため、前記の臨時総会開催願には応答することなく、昭和四五年三月一八日日本基督教会大阪姫松教会で、被控訴人も会議構成員として出席して開かれた第一九回近畿中会(定期総会)で控訴人教会の正常化に関する建議案(本件解散決議案)を提出した。右建議案の提出については、控訴人教会に対しては事前に全く通知がなかつたため、右提案に驚いた被控訴人は、信仰の本質的な問題は短期間で解決できるものではないこと、右案が提出されることは全く予想しなかつたこと、自分としてはもう一度控訴人教会の臨時総会を開きなんとかして長老を選出したい意向であること等を述べて右提案に反対し、また、出席者の中からも再度協議をして解決を図るべきである旨の修正動議が出されたがこれも否決されて議事が進められ、続行期日の翌一九日には、出席した控訴人教会ただ一人の長老広瀬角治より控訴人教会の全会員に諮る時間を与えてほしい旨の要望もなされたが容れられず、採決の結果右建議案は四六名中三六名の賛成をもつて可決され、右近畿中会定期総会は同一九日午後六時五分に終了した(甲第二号証に午後七時五分とあるのは誤記と認める。)。

(四) そして、同日の午後六時三〇分から同八時二〇分まで開かれた近畿中会臨時常置委員会(教会憲法四条二項に基づく中会の執行機関)において、住吉伝道教会指導委員に常置委員会議長である丹波恵ほか四名を選ぶとともに同教会主任教師代務者として右丹波恵を任命したほか、住吉伝道教会の臨時総会を同年四月一二日に開催すること及び右総会日までの臨時的な礼拝、説教担当者の割当てを決め、翌二〇日近畿中会は丹波恵ほか二名をして控訴人教会内の被控訴人の許を訪れさせ、前日の常置委員会の決定を伝達するとともに、被控訴人の了承を求めた。これに対し、被控訴人は、近畿中会が控訴人教会の意向を無視して一方的にこれを伝道教会に格下げしたことの不当性を述べて、説得に応じなかつた。

同月二二日は、前記近畿中会定期総会後初の礼拝日であつたが、近畿中会から派遣された説教者が控訴人教会内の礼拝堂において礼拝、説教を行つた。これに対し、被控訴人は右借置を不当としてみずから控訴人教会内の牧師館において別個の礼拝、説教を行つたが、控訴人教会員の相当数は被控訴人の行う礼拝行事に参加し、その後も礼拝日毎に右と同じような分離礼拝の行事が繰返された。

その後、四月一二日には、近畿中会常置委員会議長丹波恵の招集によるとして、住吉伝道教会の臨時総会が開催され、右丹波恵から第一九回近畿中会において建議案(本件解散決議案)が可決されるまでの経過等について報告説明がなされたところ、教会員から数多くの質疑が出、これに対する応答もなされたが、前記近畿中会、同常置委員会の決議の確認等の意思決定はなんらなされないまま閉会した。

(五) 被控訴人は、前記のように、近畿中会が一方的に控訴人教会を伝道教会にするとともに、被控訴人の牧師としての地位も失われたとしてその代務者を選任したうえ、その後の控訴人教会の運営を被控訴人やこれを支持する教会員の意思を無視して行つたことについて強い不満を抱いていたが、右のような事態となつた以上、控訴人教会としては、宗教法人日本基督教会から離脱し、独立の教会を組織する以外には途はないと考えるようになり、前記臨時総会終了の翌日である同月一三日新教会設立準備懇談協議会を発足させ、同年五月三日相当数の教会員の参加を得て、控訴人教会内の牧師館において、新教会設立礼拝及び総会を行い、ウエストミンスター信仰基準をもつて教会の信仰基準となす新教会の設立を宣言した。新教会は「神戸信愛基督教会」と名付けられ、その旨の表礼も掲げられ、五五名の会員の参加も得て、その運営のため八名の委員を選任し、予算を定める等新たな宗教団体としての体裁を整えた。

一方、被控訴人は他の教会員と共同して、同月四日日本基督教会大会に対し、前記第一九回近畿中会の決議に対する上告をしたが、これについては同年六月三日付で、上告者は日本基督教会の信仰告白、教会憲法、規則のもとにありこの秩序に服する者にのみ許され、これに服さない者は上告する権利がない旨の理由で棄却された。

被控訴人は、新教会設立後は、神戸信愛基督教会の牧師として控訴人教会内の牧師館で礼拝、説教等の行事を行つていたが、前記丹波恵指導下の住吉伝道教会側も礼拝堂で従前同様の分離集会を続けていたため、同一教会の構内で二派の宗教団体が宗教活動を行うという異常な状態が続けられた。

(六) 被控訴人は、当初前記のように新教会を設立するだけで宗教法人日本基督教会からの離脱が可能と考えていたが、同年八月下旬に至り、法律上被包括関係を離脱するためには宗教法人法の規定に従つた被包括関係廃止の手続が必要であることを知り、神戸信愛基督教会名の表礼を宗教法人日本基督教会住吉教会代表役員大崎良三名の表礼に取替え、同年九月一六日、控訴人の代表役員として、宗教法人日本基督教会との被包括関係廃止(離脱)のための臨時総会を同月二八日に開催する旨の公告、通知をなしたうえ、同月二八日控訴人の臨時総会を開いて、控訴人規則変更の決議をなし、同時に、離脱後の教会の名称を宗教法人住吉信愛基督教会と改めることを決定し、同日付で信者のその他の利害関係人に対し、被包括関係廃止の公告をするとともに、宗教法人日本基督教会代表役員八田良一あての離脱届を発送し、また同人あてにその旨打電した。そして、翌二九日被控訴人は右離脱に関する規則変更の認証申請等の手続を所轄庁においてしようとしたところ、その直前に前記丹波恵らから、控訴人の代表役員を被控訴人から丹波恵に変更する旨の届出がなされていたため、被包括関係廃止(離脱)の右申請は受理されなかつた。

(七) 近畿中会は、前記のように、被控訴人が同年三月一九日の近畿中会の本件解散決議後も控訴人教会内の牧師館で分離礼拝を行う等控訴人教会の牧師として従前どおり宗教的活動を続けていることについて、文書や口頭で、被控訴人らは既に控訴人教会の牧師を解職されたのであるから牧師としての宗教的活動を中止するよう求めたがその効果はなく、その後被控訴人は前記のように神戸信愛基督教会を設立して引続き控訴人教会内の牧師館で宗教的活動を続け、更に同年九月に入ると、正式に宗教法人日本基督教会との被包括関係を廃止しこれを離脱する手続を取るに至つたため、同月二九日開催の中会臨時総会で、被控訴人に対し本件除名処分を行うことを決定し、同日付でその旨被控訴人に通知したが、右通知書には、除名理由として、被控訴人が第一九回近畿中会定期総会において控訴人教会の牧師を解職されながら、教会員の一部を引き連れ、近畿中会の指導委員の方針に従わず、分離礼拝を行い、更に日本基督教会の信仰告白と教会憲法を奉じない別個の神戸信愛基督教会を設立したこと及びこれについてしばしば忠告をしたが、これを改めなかつたことが教師任職の際の誓約に違反し、また日本基督教会の秩序を損ない教会の平和と一致を著しく乱す行為に該当するものである旨記載されていた。

被控訴人は本件除名処分に対し日本基督教会大会に上告したが、同年一二月三日棄却された。

2  そして、以上の事実関係によれば、被控訴人に対する本件除名処分は、被控訴人が第一九回近畿中会の本件解散決議及びその後の中会の被控訴人に対する措置を不満として、宗教法人日本基督教会から控訴人の離脱を決意し、相当数の教会員とともに神戸信愛基督教会を設立し、更には宗教法人住吉信愛基督教会の名称で法律上の被包括関係廃止の手続をとるなど宗教法人日本基督教会からの離脱行動をしたことを理由としてなされたものであることが明らかといわなければならない。

3 ところで、法七八条は「宗教団体は、その包括する宗教法人と当該宗教団体との被包括関係の廃止を防ぐことを目的として、又はこれを企てたことを理由として、二六条三項の規定による通知前に又はその通知後二年間においては、当該宗教法人の代表役員、責任役員その他の役員又は規則で定めるその他の機関の地位にある者を解任し、これらの者の権限に制限を加え、その他これらの者に対し不利益の取扱をしてはならないし、これに違反してなした行為は無効とする。」旨規定しているところ、これは、特定の宗教法人がこれを包括する宗教団体から離脱して宗教活動を行おうとした場合、それが包括団体の既成秩序を乱す行為であることを理由に、通常の団体におけると同じように、宗教法人の代表役員等に対し、解任、除名等不利益処分を行うことを認めたのでは、被包括関係の廃止そのものを困難ならしめ、ひいては宗教法人がその包括団体の統制に服することを欲しない場合に、包括団体からの離脱を事実上なしえないこととなり、離脱そのものが宗教上の見解の相違に原因する場合が多いことを考えると、これにより被包括団体の構成員の信教の自由が侵害されることになるからであると解される。もつとも、特定の個人又は被包括団体が、宗教団体内部においてその規律に反し内部統制を乱す行為をしたうな場合は、仮にそれが特定人又は被包括団体の信仰上の理由に基づくものであつても、その行為者が団体の内部規律による統制を受け、不利益処分を受ける場合があることは否定できないが、結局、法は、法所定の被包括関係廃止の場合に限り、これを行うことが実質的には重大な内部規律違反の行為に当るものではあつても、これを理由に不利益処分を行うことはこれを禁止したものと解するのが相当である。また、被包括関係にある宗教法人が被包括関係から離脱することは、特定の宗教団体に属する個人について、その宗教団体の信仰基準が自己の信条と一致しないことなどの理由により、当該宗教団体から脱退する自由が認められることと同一視すべきものであり、それ自体信教の自由保障の重要な内容とみることもできる。

しかし、被包括関係の廃止そのものは常に信仰上の理由のみに基づいてなされるとは限らず、他の理由で行われることも考えられるところであるが、法七八条がこの点について特段の限定をしていないことからみれば、同条の適用は被包括関係の廃止が信仰上の理由でなされる場合のみに限らず、その他の理由でなされる場合にも一律に適用されるものと解するのが相当である。

控訴人は、被包括関係の廃止が認められるのは、信仰上の理由による場合、すなわち信教の自由に関する場合に限つて許される旨主張し、そのような考え方もないではないが、宗教法人法をそのように限定して解釈すべき文理上の根拠がないうえ、現実にも被包括関係の廃止は種々の要素が原因となつて行われることが考えられ、またそれが信仰上の理由に原因するか否かを所轄庁において判別することはいきおい宗教上の教義の解釈にわたることにもなり事実上困難であるばかりか、所轄庁に右判別をなさしめることは、宗教団体における信仰上の事項について、所轄庁ひいては裁判所のごとき国家機関による干渉を許すことにもなりかねず相当ではない(日本国憲法二〇条、法一条二項、八五条、最判昭和五五年一月一一日民集三四巻一号一頁参照)ことを併せ考えれば、右主張はたやすくこれを容れることができない。

4 そうすると、本件除名処分は、前記認定のとおり被控訴人の前記離脱行動を理由としてなされたもので、法七八条一項にいう「被包括関係の廃止を防ぐことを目的として、又はこれを企てたことを理由とする」場合に該当するものというべきところ、右除名処分は被控訴人の日本基督教会の教師資格を喪失させるものであつて、右教師は右法条一項所定の宗教法人の機関の地位にある者そのものではないが、右教師資格は被控訴人が控訴人の代表役員であるための必す不可欠の資格、要件であり、被控訴人がこれを失えば、同人は必然的に控訴人の代表役員たる地位も喪失するに至るものであることを考えれば、本件除名処分は右法条一項所定の代表役員に対する不利益な取扱いに当るものと解するのを相当とし、したがつて本件除名処分は右法条二項により無効というべきであり、被控訴人の前記再抗弁はその理由があるものといわなければならない。

五以上の次第であつてみれば、被控訴人は依然として控訴人の代表役員の地位にあるものというべく、そうである以上、被控訴人が本件解散、解職各決議ないし本件除名処分によつて右代表役員の地位を喪失したことを前提とする丹波恵の控訴人代表役員の就任及びその辞任はいずれも無効であり、したがつてまた右就任及び辞任が有効であることを前提とする田口光秀の控訴人代表役員の辞任も当然無効であるといわなければならないから、本件各登記もまたその実体的登記原因を欠く無効の登記といわざるをえない。

第三結論

以上説示の次第であつてみれば、被控訴人の本訴各請求中、被控訴人が控訴人の代表役員であることの確認と本件各登記の抹消登記手続を求める部分はいずれも理由がありこれを認容すべきであるが、被控訴人が控訴人の主任教師であることの確認を求める部分が不適法な訴として却下を免れないものというべく、したがつて、被控訴人の神戸地方法務局昭和四五年九月二九日受付第一二九一号の控訴人の代表役員大崎良三解任及び代表役員丹波恵就任登記の抹消登記手続請求を認容した原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから民訴法三八四条によつてこれを棄却し、その余の抹消登記手続請求及び被控訴人が控訴人の代表役員であることの確認請求はいずれもこれを認容し、右不適法な主任教師の地位確認の訴はこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき同法九五条、八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

(島﨑三郎 古川正孝 篠原勝美)

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